へザー・マリア・ナオミ

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Monday 16 March 2015

美味しい紅茶の秘訣

6才の時に初めてイギリスの祖父母の家を訪れました
それから間が空き、次に行ったのが15才の時。
その後は毎年冬休みになると家族でイギリスへ行くようになりました。

私が15才になる頃には祖母は体が悪く、施設に入院をしていて
祖父が一人でマンチェスター郊外にある父の実家で暮らしていました。

体が弱かった祖母の介護をしていた期間も結構続き、
その後の一人暮らしも長かったせいか、祖父はなんでも自分でできるように。
逆に、私たちが日本から遊びに来たことは喜んでいたと同時に、
自分のペースが乱れてしまうことで
ちょっと迷惑に思われていた部分もあるかのように感じることもありました。

紅茶を作るだけでも、私たちを一切手伝わせてもらえず、
キッチンに入るとなんとなく嫌そうな表情をされていました。

でも今思うと、祖父のその気持ちもわからなくもありません。
祖父はある意味、寂しさを凌ぐために
断固に自分のリズムを崩さないようにしていたのかもしれません。


祖父は言葉数の少ない人でした。

家族で遊びに行っても、天気の話、庭のリンゴの木の話、隣に住んでいた、
定年退職をされたお隣のジョンさんが毎日祖父を祖母が暮らしている施設へ
車で送り迎えをしてくれたときの話をする程度で、
あとは、父の質問に答えるぐらい。

祖父のリビングルームで静かにミルクティーをひたすら飲んでいたことが、
いちばん記憶に残っています。

でも、その静かな一時は、母や私たちにとっては幸せな一時でした。
その理由は、祖父が作った紅茶。
あんなに美味しい紅茶は他のどこでも飲んだことがない、と母はよく言っていましたが、私も今でも確信してそう言えます。


一体、なんだったのでしょう。

紅茶を入れる時に私たちをキッチンに入れてくれなかったのは
何か秘密でもあったからでしょうか。

でも、ある時に覗いてみた時ら、
スーパーで買う普通のティーバッグを使っていました。

濃厚で、奥深い味の紅茶。
まずはミルクをカップに入れ、その上から紅茶を注ぐといった
イギリスの庶民的な入れ方がまた美味しさの秘訣のひとつだったのかもしれません。

紅茶が注がれている間にミルクは徐々に温まり、
味がより紅茶と馴染むと言われます。


それだったのでしょうか。

お砂糖は、ブラッキン家の決まりで2個。

つい最近までは私もずっと2個入れていました。
(この1年ほど、お腹周りや健康を気にしてお砂糖は抜くようになりましたが...)

甘くて美味しい、濃厚なミルクティ。

もしかしたら、あの美味しさはお水にあったのでしょうか。

紅茶は沸きたてのお湯を使うのが一番美味しい。
そして決して二度沸きはせず、おかわりを入れる際には
必ず新たに新鮮なお水を沸かすこと。
一度沸いたお水から酸素が抜けてしまうから、
のようなことを聞いたことがあります。


祖父の紅茶の美味しさにはきっと長年のノウハウが詰まっていたのでしょう。

でも、それだけではないような気もします。

祖父は紅茶にお砂糖を入れ、一混ぜすると必ずやることがありました。

紅茶を混ぜたスプーンに、紅茶が一滴も残らないよう、
スプーンで軽くティーカップの縁を叩きました。

「タン、タカタンタン...

そして顔を上げ、私たち3姉妹の顔を見ながら、

「タンタン」

と音を2回たててそのスプーンをソーサーに置き、ニコッと微笑んだのです。

そう。祖父の紅茶の美味しさの極め付けはその、

「タン、タカタンタン、タンタン」

そしてその後の無邪気な笑顔だったに違いありません。


美味しい紅茶には、茶葉も、お水の硬さ、お湯の温度、
入れからや入れるタイミング、ミルクの濃さなど、
様々な要素はあるかと思うのですが、
何がもっとも美味しくしてくれると言えば、
やっぱり入れてくれる人の気持ちや愛情なのだと思うようになりました。

そしてブラッキン家の場合は、

「タン、タカタンタン、タンタン」